はじめに
「椎名林檎さんの世界観を小説にしたらこんな感じ」と言えばわかりやすいか?
“メンヘラ”とか“共依存”とかいう言葉がなかった頃の、セックスと暴力とSMと、アングラな人たちとギャルの話。
スプリットタン(舌の先を二股に割る身体改造)、タトゥー、アングラなクラブの世界。ほとんどの読者にとっては、身近にない世界。異世界すぎる世界が、ルイという主人公の目を通してひたすら淡々と描かれている。
比較的短く一気に読めてしまい、読み終えたときに「芥川賞、マジでか…」という言葉が思わず口から出た。
この読後感は何なんだ?良くわからない感情にムズムズする。
作品概要
- 著者:金原ひとみ
- 受賞歴:第27回すばる文学賞、第130回芥川賞。金原ひとみのデビュー作。
- あらすじ:クラブで出会ったアマという男性に惹かれ、同棲を始めたルイ。アマの「スプリットタング」に魅了されたルイは、タトゥーとピアスを扱うショップDesireへ通い始める。謎めいた店主・シバさんとの出会いが、奇妙な三角関係へと引き込んでいく。
目を反らしたいのに反らせない。ページが閉じられない。
スプリットタングへの憧憬、ピアスの穴を少しずつ広げていく過程、クラブの薄暗い空気。自分たちの生活とはまるでかけ離れた別の世界が、この作品には広がっている。強いて言うなら、闇金ウシジマくんや、九条の大罪に出てくるゲストキャラクターのような。
ここに描かれている世界は、私にとっても未知の世界。怖いから近づこうとは思わないけど、人には悟られたくなくて「そんな世界興味ないわ」と言うけれど、本能ではなぜか惹かれてしまう。
私もメンヘラ気質だからかなのか。
暴力的な場面も性描写も、妙な共感と背徳感苛まれながら読み進めていく。
小説を読んでいるだけなのに、なんで背徳感を感じてしまうのだろう?
アマも、ルイも、シバさんも、なんかわかる
主な登場人物は、「アマ」「ルイ」「シバさん」。三人それぞれに、なぜかわかる部分がある。
ルイのピアスの穴を広げることへの執着、死の危険を感じながらも離れられない感覚。「なんで?」と頭では思うのに、「でもわかるかも」とも思う。何かに強く引っ張られて、やめられない感じ。形は違えど、そういう経験って誰にでもあるんじゃないか。
「空虚なもの同士が穴を埋め合う共依存」という言葉が、この三人の関係をうまく表している気がする。身体に穴を開け続けることで「生きている」を確認しているような感覚。痛みで自分を確かめたいとか、存在を刻みたいとか。私は実際に自分の体に傷を付けたことはないけど、何となくわかる。
アマが死んだ後のくだりは、じわりと怖い。ルイの気持ちもわかる。怖いとわかっていても、引き寄せられてしまう相手って、いる。
「マジでか…」の余韻が消えない
読み終えてからずっと、全身に絡む違和感が残っている。
ラストは静かで、淡々としている。何かが爆発するわけでも、どんでん返しがあるわけでもない。でもそのフラットさが、かえってずっと引っかかる。「よくわからない小説なのに、なんか気になる。憑りつかれる」。そんな感じ。
20歳でこれを書いたって?この文章の密度とリアリティさは、ハタチの小娘に空想で書けるものじゃない。空想で書けたとしたら天才で、空想でなく実体験だとしても、この表現力は天才的。
役者さんって、「頭で考えて演技をするタイプ」と、「役が憑依して演じるタイプ」がいると聞いたことがある。金原ひとみは、小説家としては後者なんだと思う。つまり、感覚でこんな小説がかけてしまう。恐ろしい…
ちなみに、ちょっと前に「YABUNONAKA」も読んだけど、これはこれで、また違う金原ひとみが見えてくる。あちらは40代の女性が主人公で、こちらは20代のアングラな世界。書いた年齢も、描く世界も、まるで違う。作者自身が歳をとったから自然な流れではある。でも、これまた面白かった。
こんな人に読んでほしい
- 尖った芥川賞受賞作を読んでみたい人
- 金原ひとみの原点を知りたい人
- 短くても読み応えのある作品を探している人
まとめ
2004年に発表された第130回芥川賞で、当時20歳の金原ひとみさんと、当時19歳の綿矢りささんが史上最年少で同時受賞した。この「W受賞」は、その鮮烈な若さと鮮やかな対照性で大きな社会現象となったと記憶している。
綿矢りささんは清純で冷静。金原ひとみさんは破滅と衝動。
9割の読者は綿矢作品を好むと思う。でも、残りの1割は強烈に金原作品を支持するのではと感じる。
アングラな世界観とメンヘラな登場人物。苦手な人には苦手だと思う。性描写も暴力もわりと平然と出てくる。好き嫌いの好みがわかれる作品。
「えっ、気持ち悪いんだけど」と感じる読者がいるのはわかる。でも、私は三人の登場人物それぞれに、どこかわかる部分がある。結局私は「普通の学生~普通の大人」になったけど、私も少し違えばそっちの世界に行くタイミングあったのではと思う。
苦手な人には苦手だと思う。性描写も暴力もわりと平然と出てくる。でも「椎名林檎さんの世界観が好き」という人には、刺さると思う。ただ、気持ちが落ちている時には読まないで欲しい。アングラな世界が魅力的に見えて引きずり込まれるから…


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