はじめに
今から20年ほど前、20代中ごろに一度読んだ。「不機嫌な果実」…なんとも意味深な言葉の組み合わせ。ドラマにもなったと記憶している(ドラマは見ていないけど)。
久しぶりに本棚を眺めていたら目についたので、気まぐれで読んでみた。
ネット検索したら『不倫恋愛小説の最高峰と呼ばれる、林真理子の代表作のひとつ』とあった。不倫がテーマの小説だったか…確かに不倫の果てに~みたいな内容だったけど、私の中ではイケてる主婦が、ないものねだりしている話だった気がする。そんなことを考えながら20年ぶりに読んでみたら、思いの外懐かしく、内容自体は面白かった。この主人公、私は好きだな。
ちなみに、先出すると、この作品を“不倫小説”と思って読むと期待外れになると思う。沼にハマるような純粋な不倫小説を読みたいのであれば、村山由佳さんをお薦めする。私的に、不倫小説の最高峰は村山由佳さんだと思ってる。
作品概要
- 著者:林真理子。
- あらすじ:マザコンで自分を女性として扱わなくなった夫への不満から、水越麻也子は計算ずくで不倫相手を選ぶ。しかし欲望はどこまでも膨れ上がり、彼女の日常はじわじわと揺らいでいく。バブル崩壊後の閉塞感の中で、満たされない日常から抜け出そうと不倫に走る女性の心理や葛藤をリアルに描き、当時の社会現象となった。醒めた視点で男女の愛の虚実を描いた不倫恋愛小説。
主人公に共感できる?できない?
不倫の是非は、今も昔も意見が分かれるけど、時代の流れと共にNG度合いは高まっている感じはする。
夫に不満を持ち、「自分だけが損をしている」という感覚から逃れられない主人公。自分に都合よく物事を解釈し、相手のことより自分の欲求を優先してしまう。自業自得としか言えない場面でも、「私って可哀想」という方向に向かっていく。「身勝手だな」と思うけど、聖人君主じゃない限り、誰でも多少は同じ思考は存在してるんじゃない?
麻也子の内面がこれでもかというくらい克明に書かれていて、その言い訳の論理がなんとも巧みで、「こういうふうに考えてしまう人いるよね。あれ?私もそうかも」と思わせてしまう。この手のタイプが嫌いな女子は多そうだけど、きっとそれでも「嫌いなのに目が離せない」となるのではないかな。林真理子さんという作家の筆力にはそれくらいの力がある。
90年代の世界観が、案外リアルに響く
書かれたのは1990年代、携帯電話もメールもない時代。固定電話で待ち合わせできたんだな…きっと、今の若い世代には異世界だと思う。(私も既に想像できない…)
懐かしさも込みで読んでいると「不倫ってこんなに手間がかかるんだ」と、変なところで感心してしまった。今ならLINEひとつで済む連絡が、当時はそうはいかない。でもその「手間」が、関係の濃度を高めてもいたのかもしれないなとも思う。
連絡手段に時代を感じる一方で、主人公の「自分は損をしている」という感覚は、時代を超えて妙にリアル。女性である自分に課せられた役割への違和感、夫との関係の形式化、そういうものへの「不満=不機嫌」は、時代が変わっても変化するものではないらしい。むしろ、年を重ね、経験をかさねたらかこそリアルに響く。もしかしたら、20年前に読んだときは主人公に共感できなかったかもしれない。
濡れ場の描写も多く、私は全く苦にならないが、読んでいて不快になる人もいるかもなと。(苦手な方には少しきつい?)「直木賞を受賞し、錚々たる文学賞の選考委員を務める林真理子」を求める層には、きっと軽くて少々下品に感じるのではと思われる。
読後に残るのは、ざらっとした後味
ネタばれになるが、スッキリとした終わり方はしない。
読後に残るのは、ざらっとした後味。
麻也子がどこかで幸福になるわけでも、成長するわけでも、過去を清算するわけでもない。望んでいたものを手に入れるたびに、また別の「ないもの」が現れる、そのループが延々と続く。すっきりしない終わり方ではあるものの、麻也子という人間にカタルシスは似合わない。私はこの終わり方は嫌いじゃないし、現実はそんなもの。麻也子が嫌いな読者からすれば「ざまぁみろ」かもしれない笑
林真理子さんは「女の本音」をさらけ出すことを、恐れていないし、むしろ意図的に突き付けてくる。男性が読めば「女ってこんなことを考えているのか」と戸惑うだろうし、女性が読めばどこか居心地が悪くなる。普段は隠しているし、気付かないふりをしているドロドロとした自分の本性を、活字を通して自覚させられる。きっと、作者はそこを狙っているんじゃないかと感じる。
映画化もされた作品だが、この密度と時間の重さは、活字でなければ伝わらない。女優さんの演技力は関係のない別次元のレベルで、麻也子という人間の内面の細かさは小説でしか表現できないものだと思う。
こんな人におすすめ
- 不倫・恋愛小説に抵抗がない人
- 女性の欲望や心理描写を正面から描いた作品が読みたい人
- 好きになれない主人公でも最後まで読み切れる人
- 林真理子の代表作を一度は読んでおきたい人
まとめ
キャッチコピーに『不倫恋愛小説の最高峰と呼ばれる、林真理子の代表作のひとつ』とあったけど、不倫は主人公のキャラクターを表現するアイテムの一つであって、メインテーマではないと思う。この小説は、あくまで「主人公・麻也子を楽しむための小説」と位置付けて欲しい。“不倫小説”としてしまうと、物足りなさすぎる。
不倫小説という括りで語られることが多いけれど、本当に描かれているのは「満たされない女の欲望」という、もっと普遍的なテーマなのだと思う。
さらっと読めて面白いし、カジュアルな林真理子小説を読みたい方にはお薦め。一方で、重鎮・林真理子を欲している方にはお薦めしない小説かな。


コメント