はじめに
綿矢りささんの『蹴りたい背中』を初めて読んだのは、20年以上前。芥川賞を史上最年少で受賞したと騒がれていて、なんとなく手に取ったのだと思う。そのときの感想は「正統派の小説だな…綿矢りさ自身が優等生なんだろうな」。
芥川賞を同時受賞した金谷ひとみさんの『蛇にピアス』のインパクトに押されて、ピュアなイメージだけは記憶に残っているものの、話の内容は全く覚えていない。
何となく本棚をみていたら目に入ったのでぺらぺらとめくってみたら、予想外に面白かった。
作品概要
- 著者:綿矢りさ。1984年生まれ。本作は19歳のときに執筆し、2004年に第130回芥川賞を史上最年少で受賞。同期の金原ひとみとともにダブル受賞という話題の年だった。
- あらすじ:高校1年生のハツは、クラスになじめず孤立している。同じように余り物のにな川と、なんとなく一緒にいるようになる。にな川はモデルのオリチカの熱烈なファン。ハツはにな川への説明のつかない感情を抱えながら、高校生活を送っている。
19歳が書いたとは思えない、観察の精度
教室の空気、休み時間の気だるさ、クラスメイトとの微妙な距離感…
言語化が難しいはずのものが、するすると言葉になっている。
「プール後の更衣室の独特な臭い」みたいな細部の捉え方が、ものすごくリアルで鋭い。
文章の比喩の独特さに気づく。
20代のころにこれを読んだとき、そのリアルさを感じたかまでは覚えていないけど、多分感じていなかったんだろうな…
40代になって読み直すと、芥川賞受賞も違和感ないと感じる。
「19歳でこれを書いた」という事実の重さが、ちゃんとわかる気がした。
何をしたら19歳でこんな本が書けるのか。比喩の幼さも、むしろ高校1年生の主人公に合わせてる?
そこまで計算されているならちょっと怖い…
ハツとにな川の関係。名前のつかない感情。
この作品の一番の見どころは、ハツとにな川の関係性の描き方だと思う。
二人はクラスの「余り物」として、なんとなく一緒にいる。
ハツはにな川を好きかと言われれば、そうではない。
むしろにな川の失敗を喜んだり、背中を蹴ることを想像したり、痛めつけたいような感情がある。
でも一方で、クラスメイトが罵言を言えばいさめるし、体調を崩せば見舞いに行く。
相反する想いが描かれることで、ハツの感情がぼんやりと見えてくる感じ。
恋愛でもなく、友情でもなく、憎しみでもない。
でも読みながら「ああ、こういう感覚、あったかもしれない」と感じる。
自分より少し弱そうな誰かへの、複雑な引力のようなもの。
20代のころは「よくわからない話」だったから印象に残っていないのかも。
今読むと、ハツのその感情の正体がわかるような、わからないような…
とても不思議な感覚になる。
40代で読み直して思うこと。
40代も半ばの私が高校生の物語を読むと、さすがに気恥ずかしさを感じる部分がある。
でも、ハツがクラスになじめない感覚、孤高でありたいけど孤独は見られたくない感覚、それはわかる。
当時はどう感じていたかは忘れてしまったけど、何となく自分の高校生活はまさにこんな感じだったという気がしなくもない。
今となっては「私も当時は青かったな~」だけど。
つまらない大人になってしまった私には、ハツがにな川に抱く「蹴りたい」という衝動の本質が何なのかわからない。
でも、すっきりはしないけど、この作品は20年前に読んだ時より、面白いと感じる。
こんな人におすすめ
- 芥川賞受賞作を読んでみたい人
- 高校時代の孤独や複雑な感情を思い出したい人
- 綿矢りさを初期から順に読んでいきたい人
まとめ
盛り上がりはない。
事件も起きない。
でも読み終えてじんわりと、自分の高校時代のことを考えてしまう。
クラスで浮くのが怖くて合わせていたこと。
必要以上に、クラスメイトの振る舞いが気になって仕方なかったこと。
今となっては取るに足りないことだけど、高校生活の狭い世界では仕方なかったんだろうな…
甘くはなく、どちらかと言えばほろ苦い記憶を否応なく引っ張りださせる力がこの作品には詰まっていた。

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