【正直レビュー】宮部みゆき『模倣犯』|重くて長いのに、なぜか手が止まらない話

書評

宮部みゆきという名前は、ずっと前から知っていた。でも読んだことはなかった。

書店の小説コーナーにはいつも平積され、もちろん名前は知っている。「火車」「理由」——どれも名表紙もイメージできるくらい目にしていたものの、なんとなく読まずにいた。特に『模倣犯』は、「長い」「暗い」というイメージが強く、ずっと後回しにしてきた一冊だ。

食わず嫌いもどうかと思って、ちょっと読んでみた。最初の数十ページは少し戸惑った。視点がくるくる変わり、登場人物が次々に増えていく。「これ、どこに向かっているの?」という感覚。ところがあるページを過ぎたあたりから止まれなくなり、気がつけば一気に読んでいた。食わず嫌いはダメだね…


作品概要

  • 著者:宮部みゆき。1960年東京都生まれ。『魔術はささやく』でデビューし、社会派ミステリーから時代小説まで幅広く執筆。1999年『理由』で直木賞受賞。日本ミステリー界を代表する作家。
  • 受賞歴:第55回毎日出版文化賞特別賞(2001年)、第5回司馬遼太郎賞(2001年)、芸術選奨文部科学大臣賞文学部門(2002年)。2002年映画化(中居正広主演)、2023年にはNetflixで台湾ドラマとして世界配信。
  • あらすじ:公園のゴミ箱から若い女性の右腕が発見された——。それは連続女性誘拐殺人事件の幕開けだった。被害者の遺族、事件を追うルポライター、警察、そして犯人。それぞれの視点が交差しながら一つの事件の全貌が浮かび上がっていく、超長編ミステリー。

長くて暗いストーリーに耐えられるか

正直言って、とにかく長い。そして、暗い。

上下巻あわせてかなりのボリュームで、読み切れるかどうかの不安…しかも内容が重い。女性が被害に遭うシーンは読んでいて胸がつかえるし、「もうやめよう」と思う場面もあった。でも、結局は最後まで読み切ってしまった。やっぱり先は気になるし、文章が驚くほど読みやすい。さすが、ベストセラー作家。

宮部みゆきさんの文体は、難しい言葉を使っていない。長い文章を積み重ねながらも、テンポがよくてスラスラ進む。視点人物がページをまたいで変わるのに、不思議と混乱しない。気がつけば数十ページが過ぎている、という感じ。アマプラやネトフリの連続ドラマをぶっ続けで見てしまう、あの感覚に近い。

ただ、サイドストーリーはここまで多く必要なのか?主軸の事件から離れた人物の背景が、かなり細かく描かれる場面がある。「このエピソード、本筋に必要…?」と感じる箇所が中盤にいくつかあって、私的にはもう少しコンパクトにしてページ数を少なくしても良かったので思うけれど、これくらい丁寧に描かれてるほうが好きな人はいるとは思う。


被害者の家族を、ここまで丁寧に描くミステリーがあったのか

この作品で作者が一番印象に残したかったのは、犯人の話ではなく、被害者の家族たちの物語ではないかと思う。

特に、被害者の祖父である有馬義男という人物の存在感が圧倒的だ。孫娘を失った老人が、静かな怒りと深い悲しみを抱えながら事件と向き合っていく姿。彼の視点で語られる場面は、ミステリーというジャンルを超えた人間ドラマになっていた。

それだけではない。加害者の家族、犯人自身の育ちと心理、事件に巻き込まれた周囲の人々——一人ひとりに「なぜそうなったのか」が丁寧に書かれている。悪人を単なる怪物として描かず、その成り立ちまで掘り下げる筆力は圧倒的だ。

「犯罪は、誰か一人の問題ではない」というメッセージが、これだけのページ数をかけて静かに伝わってくる。

重くてつらい読書だったけれど、この密度と丁寧さは短い作品では絶対に出せないものだと思った。登場人物の多くに救いがない、という点は確かにキツい。でもだからこそ、現実に近いリアルさがあった。


読後に残ったのは、静かな怒りだった

物語は複数の視点から少しずつ犯人に迫っていく構成をとっている。中盤から後半にかけて、緊張感が一気に高まる。「早く捕まえてほしい」という気持ちで先を読んだ。

ただ、読み終えて正直に思ったことがある。「こんな結末でよかったのか?」と。

警察の執念、被害者遺族の執念——そういう「人の力」で犯人を追い詰める展開を、どこかで期待していた自分がいた。実際の結末は少し違う形での幕切れで、好みが分かれるポイントかもしれない。

読後に残るのは、静かで重い怒り。被害者の無念、遺族の痛み、社会の歪み…それらを真正面から否応なく浴びせかけられる作品だと思う。「面白かった」という感情と、「でも気持ちが重くなる」という感情が同居する読後感だった。

映画化もされているとのこと。是非見てみたい。ただ、これだけの密度で書かれた作品を、映画2時間に収められるのか…?小説でも漫画でも、最初に原作を読んでしまうと映像は物足りなく感じるもの。小説でしか表現できない時間の重さや厚みが映像化されると表現しきれない。この作品はまさにその部類に入りそうだから、興味はあるもののがっかりで終わるような予感も…

話は反れたけど、ヒット作には、やっぱる売れる理由があるなと。宮部みゆきの偉大さを、全ページから感じた。


こんな人におすすめ

  • 重厚な人間ドラマが好きな人
  • 犯罪被害者・加害者の両側から描く社会派ミステリーに興味がある人
  • 長くてもじっくり読み応えのある作品を求めている人
  • 宮部みゆきを初めて読む人(とにかく長い!覚悟は必要)

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