【正直レビュー】雨穴『変な絵』|前作に納得いかなかった私が、なぜ今作に引き込まれてしまったのか

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正直に告白します。大ヒットした前作『変な家』を読んだとき、私は首を傾げました。「間取り図」というアイデアは面白いけれど、ミステリーとしての論理性に欠け、結末の飛躍に置いてきぼりにされた感覚が拭えなかったからです。それなのに、なぜ続編ともいえる『変な絵』を手に取ってしまったのか。それは、この著者が持つ「不気味なまでの引きの強さ」に、どこかで期待していたからかもしれません。結論から言えば、今作は前作の欠点を補いつつ、さらに「嫌な汗」をかかせる進化を遂げていました。

『変な絵』作品概要

  • 著者: 雨穴(うけつ)
  • あらすじ: 一つのブログに投稿された、何の変哲もない「5枚の絵」。しかし、その絵を注意深く観察すると、そこにはある恐ろしい共通点と、ひとりの女性の失踪事件が隠されていた。大学生の佐々木が、オカルトサークルの後輩とともに絵の謎を追い始める第一章から、物語は数十年という時間を超え、複数の視点が交差する重厚なサスペンスへと変貌していく。最後に浮かび上がるのは、人間の「愛」が歪んだときに生まれる、救いのない悲劇だった。

『変な家』との比較で見えた「物語」としての確かな進化

前作『変な家』は、良くも悪くも「YouTube動画のテキスト版」という印象が強く、会話劇の軽さの反面、物語の深みに欠ける部分がありました。しかし、本作『変な絵』において雨穴さんは、明確に「小説家」としてのステップを一段登っています。

最大の違いは、その構成の緻密さです。前作がワンアイデアの突っ走りに見えたのに対し、今作は複数の短編が重なり合い、最後には一つの大きな絵(真実)を形作るという、ミステリーとしての醍醐味をしっかり備えています。

もちろん、あの「ページをめくらせる力」は健在です。文字数は多すぎず、視覚的な資料(絵)が効果的に配置されているため、読書に慣れていない人でも没入できる。その「読みやすさ」を維持したまま、物語の強度が格段に上がっている点には、ポジティブな驚きを隠せませんでした。

「絵」という静かな狂気が、読者の想像力を侵食する

本作のテーマは「絵」です。間取り図という無機質なものに比べ、絵には描き手の感情や、描かれなかった背景という「情緒」が入り込みます。そこが今作の恐ろしさの源泉です。

例えば、第一章に登場する「母子の絵」。一見微笑ましい光景の中に、なぜ「それ」が描かれているのか。その理由が明かされた瞬間の、鳥肌が立つような生理的な嫌悪感は、前作のジャンプスケア(驚かし)的な恐怖よりもずっと深く、長く心に残ります。

前作にネガティブな印象を持っていた理由の一つに、「設定が突拍子もない」という点がありましたが、今作はその「あり得なさ」の裏側に、歪んだ人間心理という確かな動機が据えられています。伏線が皆無だった前作に比べ、絵の中に散りばめられた違和感が、後半でカチカチと音を立てて繋がっていく快感。これを「ミステリー」と呼ぶことに、今作では躊躇(ためら)いを感じません。

状況が鮮明に浮かぶ「視覚ミステリー」の到達点

雨穴さんの作品を語る上で欠かせないのが、図版を用いた演出です。 文字だけで「怖い」と説明するのではなく、実際の絵を見せ、その細部を指し示しながら「ここ、おかしいと思いませんか?」と語りかけてくるスタイル。これはもはや、読書というよりは、ミステリードラマの現場に立ち会っているような感覚です。

前作との比較で言えば、今作の方が「なぜその図が必要なのか」という必然性が高いと感じました。絵のタッチの変化、視線の向き、色彩。それらすべてが事件の真相に直結しているため、読者は嫌でも絵を凝視することになります。 そして、見れば見るほど、そこに隠された「悪意」に気づかされ、逃げ場を失っていく。この「能動的に恐怖を味わわされる」感覚は、他のミステリー作家ではなかなか味わえない、雨穴さん独自のオリジナリティです。

世間の評判と、今この本を手に取るべき理由

SNSでは既に「前作より断然面白い」「ミステリーとして完成されている」という声が多く、前作で離脱してしまった読者ほど、今作の進化に驚いています。 もちろん、本格的な社会派ミステリーを求める層にとっては、まだ「設定の奇抜さ」が鼻につく部分はあるかもしれません。しかし、エンターテインメントとして「読者を一瞬たりとも退屈させない」という点において、この本は傑作に感じます。

「前作を読んで“ あ、自分には合わないな ”と思った方にこそ、手に取って欲しい!」 そう言いたくなるほど、今作には人を惹きつけるダークな魅力が詰まっていました。

こんな人におすすめ

  • 『変な家』を読んだけれど、内容に物足りなさを感じていた人
  • 緻密な伏線回収と、背筋が凍るような心理ホラーを同時に味わいたい人
  • 忙しい日常の中で、一気に読めて「誰かに話したくなる」ような本を探している人
  • 人間の「愛」や「執着」が極限まで歪んだ姿を、覗き見てみたい人

まとめ:その絵の「裏側」に、あなたは何を見るのか

『変な絵』は、雨穴という作家が単なる一発屋ではなく、物語を構築する確かな才能を持った表現者であることを証明した一冊です。 前作のヒットに甘んじることなく、ミステリーとしての「論理」と、ホラーとしての「情緒」を見事に融合させた本作。読み終えた後、あなたはきっと、自分の部屋に飾ってある何気ない絵や、スマートフォンの写真フォルダを見返すのが怖くなるはずです。

「面白くなかったのに読んでしまった」——その直感は正解でした。ページを開いた瞬間、あなたもまた、雨穴さんが仕掛けた5枚の絵の罠に、心地よく、そして残酷に囚われることになるでしょう。覚悟を持って、その「裏側」を覗いてみてください。

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