【正直レビュー】宮島未奈『それいけ!平安部』|「らしさ」全開の安心感と、次回作への提言

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宮島未奈さんといえば、あの「成瀬あかり」を生み出し、日本中に元気を与えてくれた稀代のストーリーテラーです。最新作『それいけ!平安部』でも、その筆致は健在。滋賀・大津、そして京都を舞台に、どこかズレていて、でも真っ直ぐな若者たちの青春が描かれます。ただ、シリーズを追い続けてきたファンの一人として、今回は少しだけ「冷静」な視点で本作を読み解いてみたいと思います。安定した面白さの裏側にある、正直な胸の内を綴ります。

『それいけ!平安部』作品概要

  • 著者: 宮島 未奈
  • あらすじ: 滋賀県の高校に通う、目立たない存在の主人公。彼がふとしたきっかけで足を踏み入れたのは、百人一首や平安文化を愛でる風変わりな「平安部」だった。伝統を重んじるのかと思いきや、部員たちはどこか現代的で、突拍子もない活動に明け暮れる日々。京都の歴史ある風景を背景に、古典と現代が奇妙に交差する中で、主人公たちが自分なりの「雅(みやび)」を見つけていく青春連作短編集。

ページをめくる手が止まらない。でも、どこかで見た「既視感」との戦い

本作を読み始めてまず感じるのは、宮島未奈さん独自の「読みやすさ」です。難しい言葉を排し、状況がすっと頭に浮かぶ軽快なリズムは、本作でも遺憾なく発揮されています。滋賀や京都のローカルネタを織り交ぜながら進む物語は、まさに「宮島節」の真骨頂と言えるでしょう。

しかし、正直に告白すれば、あの『成瀬は天下を取りにいく』で味わった新鮮な衝撃や、「とんでもないものに出会ってしまった」という圧倒的なパンチ力は、本作にはあまり感じられませんでした。成瀬あかりという巨大すぎる個性のインパクトに慣れてしまったせいか、平安部の面々の行動も、どこか想定の範囲内に収まってしまっているような、そんな「安定感という名の物足りなさ」を覚える瞬間がありました。

決してつまらないわけではなく、良質なエンタメであることは間違いありません。ただ、前作までの爆発力を知っている読者にとっては、少し肩の力を抜きすぎた「小品」のように映るかもしれません。

滋賀・京都という「聖地」への依存と、タイアップ感の影

本作でも舞台設定には並々ならぬこだわりが感じられます。特に、百人一首の聖地・近江神宮や京都の社寺を巡る描写は、ファンにとっては嬉しいポイントでしょう。 ただ、前作でも感じたことですが、実在のスポットや特定の地域に根ざした描写が、時として物語の推進力よりも「観光ガイド」のような説明調に寄ってしまう部分が気になりました。

「成瀬」の時は、その場所が成瀬というキャラクターを輝かせるための必然的な舞台装置になっていましたが、本作では舞台設定が先行し、キャラクターがその枠組みの中で踊らされているような、少し「タイアップ感」に近い違和感。滋賀を愛する著者だからこその熱量は伝わりますが、物語の自由度がその愛着によって少しだけ制限されているようにも感じられました。

「宮島作品の雰囲気」に、少しだけ飽きてきた自分への戸惑い

本作を読んでいて最も強く感じたのは、「宮島作品のパッケージ」に対するある種の飽和状態です。 「少し変わった主人公」「地元の描写」「軽妙な会話劇」「最後は爽やかに着地」。このフォーマットは非常に完成度が高く、読者を裏切らない安心感があります。しかし、同時に「次はこう来るだろうな」という予測がついてしまう。

文字を追う手は確かに止まりません。没入感もあります。でも、読了後に残る余韻が、かつての鋭さを失っている。これは著者の筆力が落ちたということではなく、あまりに同じトーンの作品が続いたことで、読者側の感性が麻痺してしまっているのかもしれません。 「読みやすさ」というポジティブな武器が、物語の「深み」や「毒」を削ぎ落としてしまっているのではないか——。そんな贅沢な悩みを感じてしまうほど、本作は「優等生すぎる」一冊でした。

次回作への期待:全く違う方向性へ舵を切る宮島未奈が見たい

『それいけ!平安部』は、これまでの宮島作品を愛してきた人にとっては、安心して楽しめる「いつもの一皿」です。しかし、一人のファンとしては、そろそろこの「滋賀・京都×青春」という黄金パターンを一度壊した宮島作品を読んでみたい、と強く願っています。

例えば、一切のユーモアを排した重厚な社会派ミステリーや、救いのないダークな人間ドラマ。あるいは、舞台を全く未知の異世界に移したハイファンタジー。あの抜群のリーダビリティと観察眼を、全く別のベクトルに向けたとき、一体どんな化け物じみた作品が生まれるのか。 成瀬あかりという「天下」を取った著者なら、その高い壁さえも軽々と越えてくれるはずです。本作がその「嵐の前の静けさ」であることを期待せずにはいられません。

こんな人におすすめ

  • 宮島未奈さんの作品が大好きで、全作品をコンプリートしたい人
  • 難しいことを考えず、京都や滋賀の風景を楽しみながらリラックスして読みたい人
  • 百人一首や古典の世界に、現代的な視点から触れてみたい人
  • 「成瀬」のような強烈さよりも、日常の延長線上にある穏やかな物語を求めている人

まとめ:安定の「雅(みやび)」の向こう側へ

『それいけ!平安部』は、宮島未奈という作家の安定した実力を再確認させてくれる作品です。 ページを閉じれば、京都の涼やかな風が吹き抜けたような爽快感が残ります。それは紛れもなく、著者が丹精込めて作り上げた世界です。

ただ、私たちの期待はさらにその先にあります。 成瀬が都を駆け抜けたその先で、著者がどんな新しい地図を描き出すのか。今はその「全く違う方向性」の次回作を、期待を持って待ちたいと思います。

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